#1 ひとまず謎掛け
#2 第一兎を発見
#3 だいたい永夜抄
#4 対 神の業
#5 おもわぬ漏洩
#6 もしか花映塚
#7 いわゆる正義
#8 対 恋魔法
#9 審判の目
#10 死を呼ぶ手
#11 とむらう合戦
#12 いきなり紅魔館
#13 いつかの閑話
#14 ともあれ日常
#15 さりとて蓬莱
#16 ふたたび謎掛け
#17 対 恋魔法二度目
#18 三途の急流
#19 対 奇跡
#20 対 原始的体術
#21 虚無と深淵
#22 それでも因幡
#23 ついには離別
#24 さよなら休息





 
#4 対 神の業




  
「………」

  
「あら珍しい。こんなところへご参拝?」

  
「はい、仕事がうまくいくようにと」

  
「帰り道は気をつけてくださいね。迷い易いので」

  
「二重の結界のせい、ですか」

  
「……よく調べてるわね。私はここの巫女」

  
「博麗霊夢」

霊夢
「そうそう。…で、あなたの正体は?」

  
「単なる人間ですよ。占い師の神楽鏡影と申します。
八雲紫と名乗るモノから依頼を受けて、こちらへ伺いました」

霊夢
「うわっスキマ関係か。妙なことが起きそう」

神楽
「そう、妙な事が起こるのを防ぐようにと」

霊夢
「…そういうのって、私の役目なんですけど」

神楽
「詳しくは聞かされていません。ですが恐らく…物騒な仕事になるようです」

霊夢
「マジで?じゃ任したわ」

神楽
「………
なにかご存知ではないでしょうか。
本当に手懸りらしい手懸りも与えられていないので」

霊夢
「それはスキマ妖怪の趣味だからね」

神楽
「一刻も争うはずなのですがね」

霊夢
「占い師なんだから自分で占ってみたら?
 …うーん。しかし、好き勝手されて死なれてもバツが悪い」

神楽
「でしたら」

霊夢
「身をもって知るのが早いわ。全部避けてね」

神楽
「………は?」

霊夢
「あ、今回そっちは攻撃禁止」






霊夢
「お見事。解ったかしら?」

神楽
「解りません」

霊夢
「ここじゃあ妖怪が関わるいざこざを、平和的に纏めるためのゲームがあるの。
どっちかがぶっ倒れるまで今みたいな事をするわけ」

神楽
「…それは平和的なんでしょうか?」

霊夢
「まともに戦うよりはずっと良い」

神楽
「では当たっても死なないんですね?」

霊夢
「………
 …うん、丈夫なら」

神楽
「………」

霊夢
「わかったわかった、お茶ぐらい出すわよ」

神楽
「そんな催促はしてません」





 
#4.5


霊夢
「いきなりだけど、あなたキナ臭いわね」

神楽
「いきなりですね」

霊夢
「幻想郷は外を追われた存在たちの集まる所。
中にはそういう臭いを気に入らない奴もいるの。
だから、私に任せてくれない?」

神楽
「野放しにはできない、と」

霊夢
「そう。そっちが危険だし」

神楽
「…心配せずとも、身体は丈夫ですので。あなたの協力は要りません」

霊夢
「毒なんて入れてないわよ?」

神楽
「………」

霊夢
「どう聞かされてるのか知らないけど、ここはそう危ない所じゃないわ。
あなたを追い出すことになるのはあいつも避けたいんじゃないかしら」

神楽
「人生なにが起きるか解りません」

霊夢
「占い師が言う?」

神楽
「占い師だからこそ言うのです」

霊夢
「………人を喰う妖怪はね、一度嘗められるとやっかいだから。
必要以上に怖がらないのが一番よ」

神楽
「知っています。猛獣と接するようにですね」

霊夢
「違うけど合ってる。あ、噂をすれば影」

神楽
「まさに影ですか。
…木に頭突きしましたね。一体なんの意図が」

霊夢
「見えてないだけよ。
 丁度いいわ、話しに行きましょう」

神楽
「喰われないんですか?」

霊夢
「あんなのに負けると思う?」






ルーミア
「食べても良い?」

霊夢
「どっちもだーめ」

神楽
「………」

ルーミア
「ケンカが強い牛はおいしいらしいよ」

霊夢
「あんた牛肉も食べるの」

ルーミア
「人間にも当てはまりそうだと思って」

霊夢
「…とりあえず、闇を薄くしようよ」

ルーミア
「嫌ー」

神楽
「ではせめて顔を合わせなさい」

霊夢
「え?」

ルーミア
「…あ、後ろに居たの?もう一人には見えてるんだ?
私でも見えないのに」

神楽
「光に頼るだけの目はしていないので」

ルーミア
「そーなのかー。便利だねー。
見られたからには生かしておけないわ。やっつけてやる」

霊夢
「やっつけられるわよ」

神楽
「…繋がりがわかりませんが、負ければ餌ですか」

霊夢
「大丈夫よ、負けてもかたきは取る」

ルーミア
「今日のランチは黒毛和牛♪」

神楽
「人間だ」





霊夢
「おーおー、小気味良いゲンコツの音が」

ルーミア
「ぎゃー襲われるー!」

神楽
「やめろ!その格好で!」

ルーミア
「境内ぜーんぶ真っ暗にしたのに、よく見つけられたわね」

神楽
「技術の一つとして、光の操作を齧ったことがある。
対策も身につけるのは当然のことだ」

ルーミア
「人間のくせに私を齧るなんて、ムカつくわー。
 夜は背後に気を付けなさいよー!」

神楽
「………
…何か拍子抜けというか…気が抜けるのですが」

霊夢
「そうね。そんなもんよ」










里火
「……少し待ってくれ」

イナバ
「待った無しです」

里火
「ゲームのことではない。しばらく外に出て良いか?」

イナバ
「五目並べ位で悩まなくても…」

里火
「………」







 
「…辰の刻、瞬間移動らしきものを使った。直前笛のような音が聞こえる。っと」

里火
「そして目標に発見」

 
「される、と。……あやややや」

里火
「どこに頼まれた」

 
「い、いえいえ私は自由なブン屋です。清く正しい射命丸文。
えーっと只今、幻想郷の所得格差について調べてまして」

里火
「外から覗く必要はあるまい」

「前に訪問したときは塩を撒かれまして」

里火
「ふむ…」

「しかしそちらから来てくれたなら都合がいい。
インタビューさせていただきます。あなたのご職業をお聞かせください」

里火
「それは出来ぬな。どこまで調べているか教えてもらう」

「や、言論自由の危機!」






「しまった!鬼ごっこを仕掛けるのは無謀だったか…」

里火
「いや、なかなか手強かったぞ。読ませてもらう」

「私のネタがぁー」

 
 (スキマ妖怪は二体居た!)
 (結界も解けるのかも?→幻想郷の危機!?)

里火
「………
本当にゴシップのようだな」

「失敬な。裏はちゃんと取っていますよ!」

里火
「ならばこれは嘘だ」

「あら?」

里火
「結界などを操作する力は無い。単独で越える事は出来るがな」

「あちゃあ当てが外れたか」

里火
「返そう。仕事の邪魔をしてすまなかった」

「いや趣味なんですけど…あれ?
いいんですか?他のページも見なくて。
なんて書かれてるか気にならないんですか?」

里火
「どうせ長居をする予定は無いのでな。好きに書いてくれ」

「本当に?」

里火
「ああ」

「知りませんよ?どうなるか」

里火
「…そこは知っておいて良いだろう」

「いやだって、メインが消えたから。行が埋まらない…
どうしよう…」

里火
「………」





イナバ
「どこ行ってたんですか」

里火
「すまぬ」

イナバ
「丸一日も。心配しましたよ」

里火
「そうか」

イナバ
「………なに持ってるんです?
げっ天狗の新聞!」

里火
「い、いや、刷り立てを試読にとな」

イナバ
「ふーん。…あれ?」

里火
「………」

イナバ
「ちょ、消えないでください!なに一面飾ってるんですか!
…なんかUMA扱いされてるけど、良いんですか?」






イナバ
「竹の花。
永遠亭の周りだけだわ。
こんな寒い秋にどういうこと?」

 
「知らないよ!」

イナバ
「妖精には聞いてない。チルノのせい? ではないわね」

チルノ
「咲きたい気分だったんじゃない?」

イナバ
「万物全てが、あんたみたいなわけじゃあないの。
師匠なら知ってるかな」

チルノ
「逃げるの。けんめーなはんだんね」

イナバ
「なんだって?」

チルノ
「最強のあたいには敵いっこないもん!」

イナバ
「師匠ー聞きたいことがー」






永琳
「竹の花。凶兆の印のひとつ。
 60年に一度しか咲かないから、見るのが珍しいということもあるわ」

イナバ
「良くない事が起こるんですか?」

永琳
「地上人の迷信よ。気にしたら蹴躓いても凶事に思えてくるものです」

チルノ
「あたいは気にしないよ」

イナバ
「………
 あ、剣さん。お散歩ですか?」

里火
「……うむ」

チルノ
「寒いの好き?」

里火
「……いや」

永琳
「優曇華院、写真機持ってきて」

イナバ
「はい」

チルノ
「見て見て、触るとパリパリになるの。ほらこれも、こっちも」

里火
「ほうすごいな。………うむ。
 ……ええと……なぁ鈴仙」

イナバ
「無視してください」

チルノ
「すんな!ちくしょー兎も冷凍してやるー!」







イナバ
「妖精というのはですね。自然現象の具現であって、
 生き死にというものがないんです」

里火
「ふむ」

イナバ
「だからこんなふうになっても…」

チルノ
「よくもやってくれたわね!」

イナバ
「戻ってくると。…今日に限って粘着質ね」

里火
「そうか、安心した」

永琳
「…本当に苦手なのですね。死なれるのは」

里火
「………」

イナバ
「?…師しょ」

チルノ
「アイシクルフォォールッ!!」



魔理沙
「永遠亭へも久々だわねぇ」

アリス
「迷わずに行けたらの話だけどね」

イナバ
「なにしに来たの?魔法使いが」

魔理沙
「ランプの魔人が流れ着いたと聞いて」

アリス
「見物に来たのよ」

イナバ
「願い事はできないわよ」

魔理沙
「ありゃ、もう三つ使っちまったか?」

アリス
「旅人の話を聞いてみたいだけよ」

イナバ
「患者様をこき使うのは、姫様だけで十分」

魔理沙
「人の良いスキマ妖怪と聞いたら、こき使わんでか!」

アリス
「そんなことしないから会わせてくれない?」

イナバ
「絶対に会わせられないわね。特にそっちの黒いのは」





魔理沙
「弾幕はパワー!パワーこそが正義だぜ」

イナバ
「だから駄目だってば〜」

アリス
「…ねぇ魔理沙、気にしなかったけど何か企んでるの?」

魔理沙
「いいから行こう。上手く丸め込めば儲かるかも」

アリス
「やっぱり悪用するのね?」

里火
「その依頼には答えられぬな」

魔理沙
「うわいつの間に!?」

アリス
「き、きっとこいつよ!こいつがあれよ!」

魔理沙
「えぇー?こんだけ頼んでもダメか?」

里火
「今の瞬間にどう頼まれたのかはわからぬが、下らん悪行には加担したくない」

魔理沙
「よし。弾幕ごっこで決めよう、な!」

アリス
「なんでそうなるのよ!」






里火
「ゴフッ」

魔理沙
「おや?弱いなあんた」

里火
「…スペルカードルールは、不得意だ」

アリス
「やめなさいよ魔理沙。体が悪いみたい」

魔理沙
「そういや患者とか言ってたような…。
これはすまんかった。言うこと聞いてくれ」

アリス
「鬼畜ね」

里火
「わしの負けに変わりはない。
できる範囲で応えよう」

アリス
「素直ね」

魔理沙
「よし、じゃあ紅魔館の図書館から…」

里火
「…ふむ、全部か」

魔理沙
「待った!……危ない危ない。
 これは頼んだ奴が、本の山に埋まるってパターンだな?」

里火
「勘が良いな」

魔理沙
「マジか。
 ああーそうだな、食べたこともないような旨いもんとか…」

里火
「完全に乾燥しておれば、劣化せず持ってこれる」

魔理沙
「フリーズドライかよ。やめやめ。
 …それなら本も無事だったか怪しい」

里火
「たしかにな」

魔理沙
「……じゃあお宝!金銀財宝!」

里火
「金品の盗みは断る」

魔理沙
「それなら一体何ができるんだ?」

里火
「何もできぬ。
 精々誰にも気付かれずに、忍び寄ることぐらいだ」

魔理沙
「…月のない夜に重宝するな」

アリス
「そんな相手居るの?」

魔理沙
「恨みは持ち越さない主義だぜ。結局頼めるこたぁないか」

アリス
「…どうやら愉快な話は期待できそうにないわね。主に聞くのも辛い苦労話?」

里火
「ああ。時には語るも辛い」

アリス
「なるほど、お騒がせしました」

魔理沙
「なんだ、他人の不幸をすすらないのか?」

アリス
「…そんな妖怪じゃないわよ」

魔理沙
「はいはい。じゃあまたなースキマのおじさん」

里火
「………」




イナバ
「………」

里火
「………」

イナバ
「…あの礼儀知らず」

里火
「気にはしていない」

イナバ
「なにか言われましたか?」

里火
「お主のほうこそ、怪我はいいのか」

イナバ
「平気です。師匠に頼むまでもありません」

里火
「………
…自分の無力さを、改めて自覚しただけだ」

イナバ
「……嫌味ですか?」

里火
「いや、そんなつもりは…」

イナバ
「うわっ一人戻ってきた!まさかトドメを刺しに!?」

里火
「お、おい、待て!」

魔理沙
「また来たぜー。願い事候補が残ってたぜ」

里火
「…聞くだけ聞こう」

魔理沙
「そうだな、私の友達のためになんかくれ」

里火
「………?」

魔理沙
「…なんと言えばいいのか、さっき並んでた奴とは、結構長い付き合いでさ。
誕生日はわかんないけど、まあそろそろお中元の季節だし…。
いや!とにかく!良いものないかな?」

里火
「………」

魔理沙
「この際乾物詰め合わせでも、ドライフラワーの花束でもさ」

里火
「…すまぬ、正直ろくな奴だとは思っていなかった」

魔理沙
「まあ堅苦しいことはなしで」

里火
「これで良いか?」

魔理沙
「色つき水晶か。この大きさなら指輪が二つ三つ削り出せるかな?
 ……で、これは盗んだわけじゃないの?」

里火
「未開の洞穴からなら良いだろう。
 以前迷い込んだ時に、手遊びに磨いたものだ」

魔理沙
「それは是非とも教えてもらいたいね」

里火
「空気のない所だが」

魔理沙
「文字通りかい。
 まあいいや。よし!これならお返しで高価な本の一つ二つ…」

里火
「………」

魔理沙
「性分だから仕方ないぜ」






#8 対 恋魔法


霊夢
「お疲れ様。はいお茶。
 あんなのを薙ぎ倒して回る自信はある?」

神楽
「薙ぎ倒すことが前提ですか?
 ……やはり、調子が出ませんね」

霊夢
「父性本能ってやつかな」

神楽
「まさか。しかし場の空気に流されて、生かして帰してしまうとは。
 喰われかけたというのに…」

霊夢
「許してあげなさいよ、喰い殺されかけたくらい」

神楽
「それは聞き入れかねます」

霊夢
「…じゃあ私は調査してくるから、神楽さんは家事でもしながら留守番してて」

神楽
「わかりました……ん?」

霊夢
「台所は好きに使って。お昼には戻ってくるから。掃除道具はこっちの物置に…ああ、洗濯はいいわ」

神楽
「ちょっとすみません」

霊夢
「うん?」

神楽
「何故そのような事をしなければならないのでしょうか」

霊夢
「……いいえ、強制してるわけじゃないの。
ただゴロゴロして待っているだけじゃ、暇じゃないかと思って」

神楽
「……情報の対価ですか」

霊夢
「ちがうってば。『あの紫から何を貰ったのか』とか、『分けられるものなら5割は欲しい』なんて、私は微塵も思ってないわよ?」

神楽
「…わかりました。"暇なので"外を掃いてきます」

霊夢
「あら、ありがとう」





魔理沙
「おやっ、見なれぬ奴が掃除をしている」

神楽
「巫女はただ今留守です」

魔理沙
「おっさんはなんだ。丁稚か?」

神楽
「……違います。確かに仕事で来ましたが」

魔理沙
「ふーん。あの霊夢が珍しい」

神楽
「雇い主は別です」

魔理沙
「なるほど」

神楽
「言伝ならお聞きしましょう」

魔理沙
「いやいい。乙女の悩みはそう簡単に教えられないぜ」

神楽
「どこに乙女が?」

魔理沙
「…なんだおっさん、丁稚呼ばわりが気に入らなかったのか?」

神楽
「いいえ」

魔理沙
「まあ、新しいパターンを思いついたから、見せたかっただけなんだけど…。
 一般人には頼めないしな」

神楽
「そう見えますか」

魔理沙
「人間じゃあないのか?」

神楽
「普通の占い師ですよ。本業は」

魔理沙
「私も普通の魔法使いだぜ」





魔理沙
「素早いなおっさん!実は忍者だろ!」

神楽
「……やめてください」

魔理沙
「汚いなさすがおっさん汚い」

神楽
「おっさんと呼ぶのをやめてください。
汚いも違う意味に聞こえますし」

魔理沙
「でもお兄さんって感じにも見えないしな。まあいいじゃん。
よし、これで改良する点が見えた!」

神楽
「私には神楽という…」

魔理沙
「じゃあまたなー」






#9 審判の目



小町
「お兄さーん、死んでるかーい?おーい」

 
「…?意味がよくわかりませんが」

小町
「三途の川に青っちろぉい顔で浮かんでるなんて、溺死体ぐらいじゃないか。
 乗ってくかい?おまけするよ」

 
「ではお言葉に甘えます。いやぁ自宅で寝ていたと思ったんですが」

小町
「そりゃまたすごい寝相だね」

 
「私も驚きですな」

小町
「で、彼岸と此岸、どっちに行きたい?」

 
「さてはて、どっちに行けば帰れるのやら……っと、
 しかしここは絶景ですなぁ。八津崎市でこのような所があるとは」

小町
「八つ裂き死?他殺かい?」

 
「いい響きですよね」

小町
「そうかなぁ。
とりあえず渡しておこう。四季さまも新制度導入するとか脅してくるし」

 
「ふむ、渡しのお仕事も大変そうですね」

小町
「はぁー…そーなんだよぉー
あたいが適度にサボるから、あっちも楽できるってのにさ」

 
「いやいや、あなたが居なければ渡りたい方が困ってしまいます」

小町
「話が続かないこともあるしさ〜…」

 
「無理にすることはないと思いますけどねぇ。世間話が苦手な方も居られますし。
仕事をしながら楽しめる事があれば、一番ですな」

小町
「…ああそうだ、うっかり忘れてた。
マイペース、マイペース。あたいが鬱いじゃ成り立たないね」

 
「その通りです」

小町
「しっかしお兄さん、なんでまた殺されちゃったんだい?」

 
「いやぁ楽に殺される体なら、今頃生活苦には悩まされていないのですが…」

小町
「おや?」

 
「はい?」

小町
「あっ、そいつぁ返り血、生きてはいるのか。いや、しかし、これは一体…」

 
「私もよく解らないんですよねぇ。塵になっても気が付くと治ってたりして」

小町
「………
おっと岸だ」

 
「あの」

小町
「んと…
いってらっしゃい。言わなきゃばれないって」

 
「ええと、まさかここは」

小町
「地獄に落されても、今は出ようと思えば出られるから」

 
「…行かなきゃ駄目なんでしょうか?」

小町
「帰りはお金貰うよ」

 
「えー」

小町
「黄泉の裁判所なんて蓬莱人なら絶対来れない所だよ?
土産話に閻魔様を拝んできな」

 
「ええー」




映姫
「うわ、化け物」

黒贄
「えー」

映姫
「まさか百万人超えの殺戮犯が来るとは」

黒贄
「ふむ。もっと多いと思いますが」

映姫
「数は問題ではありません。あなたは業の重みを知った上で、進んでそれを貯めている。
このままならいずれ鬼と化すでしょう」

黒贄
「そうは言いましても、私の仕事がありますし」

映姫
「なんですか?」

黒贄
「ほぼ不死身の殺人鬼が営む探偵事務所。それが唯一の売りでして」

映姫
「…繁盛のほどは?」

黒贄
「からっきしですな」

映姫
「しばらく休業なさい」

黒贄
「えー」

映姫
「そして地獄で反省するのです。殺生を絶てば私の説教も届くようになり、人間に戻れるやも」

黒贄
「はぁしかし、元より人間だったか怪しいものでして…って、やっぱり殺せないんですか?」

映姫
「ものによります」

黒贄
「ううん…、こちらの空気は実に良いのですが、生きた人間が供給されない生活は御免被りたい」

映姫
「主食にしてるんですか?」

黒贄
「それは主義に反します。ただ交流がないとイライラするので」

映姫
「正しい交流の意味も知るべきですね。
 あなたを野に放つことは大罪に他ならない。鬼として現世に在り続けるというのなら、
 私はあなたを止めなければなりません」

黒贄
「回りくどいですが、つまりは力尽くですな。
 はぁ…神のような方は以前殺しましたが、仏の方は殺せないんですかねぇ」

映姫
「ハンデはあげましょう。手のひらで私に触れられたらあなたの勝ち」

黒贄
「鬼ごっこですか?」

映姫
「スペルカードルールです」

黒贄
「ああ、スペルカード」

映姫
「あなたは三度、床に背中を付くか、棄権する他負けは無し」

黒贄
「それはちょっと……いえ、かなりのハンデになっている気がします」

映姫
「…本当にそうなのか、よく考えたほうがいいですよ」

黒贄
「ところでスペルカードとはなんでしょうか?」




映姫
「まさか……!」

黒贄
「タフネスには自信があるんですよ。
 もう一回倒せば私の負けですが…」

映姫
「………」

黒贄
「……ううむ。やはり、姿だけとはいえ、
小さなお嬢さんを負かせるのはなんだか…」

映姫
「とうっ!」

黒贄
「うへっ!?」

映姫
「決まり手、足払いで四季映姫白星!白黒はっきり付きました!」

黒贄
「ず、ずるい」

映姫
「勝敗を譲った時点で、あなたの負けです」




#10 死を呼ぶ手