「次元放浪者が幻想入り」の会話です。
東方療養季。
#1 ひとまず謎掛け
#2 第一兎を発見
#3 だいたい永夜抄
#4 対 神の業
#5 おもわぬ漏洩
#6 もしか花映塚
#7 いわゆる正義
#8 対 恋魔法
#9 審判の目
#10 死を呼ぶ手
#11 とむらう合戦
#12 いきなり紅魔館
#13 いつかの閑話
#14 ともあれ日常
#15 さりとて蓬莱
#16 ふたたび謎掛け
#16.5 行間
#17 対 恋魔法二度目
#18 三途の急流
#19 対 奇跡
#20 対 原始的体術
#21 虚無と深淵
#21.5 蛇の足
#22 それでも因幡
#23 ついには離別
#24 さよなら休息
「師匠。師匠」
「どうしたの優曇華院」
イナバ
「外来人の患者です」
「あら珍しい。さらってきたの?」
イナバ
「人聞きの悪い。林の奥で行き倒れてたんですよ。 なんでも誰にも治せない持病があるとか…」
「それは興味が湧くわね」
イナバ
「今連れてきます」
「………」
「はるばる幻想郷の永遠亭へようこそ。私は八意永琳。
どうぞ、帽子を脱いでお寛ぎください」
「……いや、ゴホッ…それはできぬ」
永琳
「あら、失礼しました。 でも症状が出ておられるなら診ないことには…」
イナバ
「とりあえず、その大事に抱えた靴は袋に」
「すまない。…なにせ、いつまでここに留まれるか、解らぬのでな」
イナバ
「?」
永琳
「お名前を」
「……剣里火だ」
永琳
「普段の生活で、記憶が抜け落ちていることがあるとか、いつの間にか知らない場所に立っているだとか、そういう事がありますか?」
里火
「精神の病でか?」
永琳
「んー」
イナバ
「師匠?」
永琳
「ちょっとすみません。
……さっきから患者の姿が掠れて見えるんだけど、なんで私の精神を操ってるのかしら?」
イナバ
「い、いや、知りませんよ私!?こっちが聞きたいくらいです!」
永琳
「?」
里火
「……折角だが、これは医術で治せるものではない」
永琳
「まあ、そう仰らないでくださいな。病は気からと言いますので」
里火
「…その子に説明したが……伝わっていなかったようだな。
わしはこの次元の者ではない。生まれつき、異次元同士の境目を踏み越えてしまう体質なのだ」
永琳
「…体質」
イナバ
「わひっ!すみません師匠!でも物凄い勢いで喀血してたから!」
里火
「長年無理をしてきた結果だ」
永琳
「………」
里火
「次元移動に巻き込まれれば通常の生物は耐え切れん。
ある程度は制御できるが、大きな波には逆らえず、気付けば見知らぬ場所に立っておる」
永琳
「…そう仰られましても、証拠を見ないことには信じられませんわ」
イナバ
「師匠。興味本意丸出しです」
里火
「仕方ないな、ここにはない物か?」
イナバ
「あなたも素直すぎます」
永琳
「そうですわね…」
里火
「………」
「男は黙って金閣寺!」
永琳
「!?」
イナバ
「!?」
「私の出番のようね」
イナバ
「なにが!?」
里火
「…そんな大きなものは持ってこれぬ。この屋敷のお姫様か?」
「上手いわね」
イナバ
「いや、事実だし」
「それもそうね」
永琳
「あらあら姫様、患者のいる部屋には顔を出さないで欲しいと言ってましたのに…」
「…なに?永琳、その憐憫の眼差しは」
永琳
「ご近所の目もあることですし……」
「にっ、ニートって言うな!あなたは口を挟まないで!」
永琳
「わかりました輝夜お嬢様」
イナバ
「………ああ、この前パソコンで見てたアニメか…」
里火
「……………」
輝夜
「蚊帳の外ね」
イナバ
「やめなさい」
輝夜
「あなたは口を挟まないでイナラハン!」
イナバ
「だからやめなさいってば」
輝夜
「…わかったわよ〜。さっさと難題出せばいいんでしょ〜」
イナバ
「いや、頼んでないし……」
輝夜
「患者さん!弾幕ごっこよ!」
里火
「??? す、すまない、そのような遊びは…」
輝夜
「ルールは簡単。倒れたら負け!大技には名前をつけて、使うとき叫ぶこと!」
輝夜
「違う!これは銀閣寺のー!」
里火
「こちらの歴史にはあまり詳しくない、…のです。
……全身を隠すのは反則でしょうか?」
輝夜
「駄目に決まってるわよ!そんな弾幕の避け方チートよチート!
この石も月のだけどイルメナイトじゃなーいー。燕もガーサーガーサー」
永琳
「……幻想郷には、万物の境を操る妖怪が居ると聞いているけど
……それに神隠しされた人間は無事なのかしら。ねえ優曇華院」
イナバ
「知りませんよ」
「………」
「……また、ずれたな。
『狩場』の竹林ようだが、さて…」
「………」
「………兎か」
「なぜばれたの!?」
「ぬあっ!?」
「ああそっか、耳が出てたのね」
「な、なん…ゴホッ
ゲホッゲホッ!……
…お前は、なんと言おうか……兎ではないな?」
「兎だよ」
「耳以外は人間に見えるが」
「化けたからね」
「何に」
「何にじゃなくて、化け兎だよ。因幡てゐっていうの」
「………」
てゐ
「あなたも妖怪?」
「ぐっ。別次元の人間だ」
てゐ
「ふーん。何を狩りに来たの? さっき狩場って言ってたでしょ」
「…故郷ではそう呼んでいた。なにもする気はない」
てゐ
「まあそういうことにしたいんなら」
「本音だ」
てゐ
「隠さなくてもいいよ。あなたの星では別の星の原住民を、とっ捕まえて頭からぼりぼり食べるんでしょ?」
「わしには関係ない」
てゐ
「取引きしない?」
「…………なんと言った?」
てゐ
「この幻想郷を領地にしたら後は楽。
兎側に手を出さないって決めてくれたら、地球征服のお手伝いをしてあげてもいいわ」
「……狩場の支配か…」
てゐ
「人妖を畜僕にして、兎とあなたたちが頂点に立つ世界!」
「そんな計画はとうに消えた」
てゐ
「あ、あれ?意外と弱いの?」
「いや、強い」
「何も無い荒野の土地。共食いするしか生きる術のない奴らは、何を求めたと思う?」
てゐ
「なに?お坊さんのおとぎ話?」
「わしの故郷のことだ」
てゐ
「そりゃあ、もっとましな土地に…」
「土地は通過点でしかない。最も欲したのは娯楽と…野菜だった」
「なによそれ」
「たしかに、こちらの人間から見れば不可解だろうな。
支配などせずとも、奴らは譲歩案で満足しておる」
てゐ
「……そんなことより、腕を捻ったり刃物を首に当てたりとかはー、
ルールにないんですけどぉ…」
「お前は邪悪だ」
てゐ
「いやぁ丸焼きにしないでぇ〜」
「さて、どうしたものか……冗談だ」
てゐ
「とうっ!!くっそー、せっかく次期支配者に取入れると思ったのに!撤収ーっ!」
「他を当たれ!……まったくとんでもない奴だ。
…少し、疲れたな……体が…重…」
「……なんだ、触るな。巻き込まれるぞ……
しかしなぜ戻って……
……ああ、別の化け兎か」
てゐ
「あ!異星人!」
イナバ
「いきなりなに言ってんの」
里火
「……あの時の邪悪な兎か」
イナバ
「邪悪?」
てゐ
「う、うるさい!侵略に来たのはお前のほうだろ!真っ黒!探偵カゲマン!」
イナバ
「ごっこ遊び?」
てゐ
「違う!だまされないで鈴仙!
こいつは人も兎も喰い散らかす凶悪な…」
イナバ
「食べれないわよ」
てゐ
「え?」
イナバ
「だから、なんにも食べられないのよ、この人は。…薬もすり抜けちゃうの」
てゐ
「はぁ?じゃあそんなの、どうやって生きて…」
里火
「………」
イナバ
「……いいから!さっさと客間の掃除するわよ」
てゐ
「え、ええぇぇぇ?
薬が駄目なら治せないんじゃないの?」
イナバ
「輝夜様が『扱いやすくて面白いから居候させる!』って。はい行った!」
里火
「………そんなことを…、いや。構わぬが」
里火
「夜も遅いというのに、子供が何をしておる」
「ただの子供じゃないよ。
おじいさんこそ、何してるの?」
里火
「宿の世話をしてくれた礼にと、肝試しに付き合っておる。
はぐれてしまったが」
「女の人?」
里火
「お主ぐらいのな」
「ロリコン?」
里火
「……恩返し」
「なるほど、実は鶴」
里火
「そう綺麗なものではないんだが」
「じゃあ夜鷹?
…しかし、まっすぐ歩けないほど悪いの?」
里火
「……心配ない」
「そうは見えない。肩を貸すよ。良い医者を知ってるんだ」
里火
「永遠亭か」
「ん、知ってるんだ?」
里火
「何を隠そう今の宿がここだ。
もう、歩ける。ありがとう」
「…ああーなるほど。なーんだ肝試し。
あんた、輝夜の刺客だったのか」
里火
「……?」
「あいつは何度も何度も何度も私を始末しようとして。
死ねないのに!あいつのせいで死ねないのに!!」
里火
「っ始末?なんのことだ!?」
「私の名は藤原妹紅。新月にも届く不死の炎。
機織る前にその黒羽、身ごと青炎にしてやろう!」
妹紅
「ぅゎ、ι゛ι゛ぃっょぃ」
里火
「す、すまん。加減を忘れた」
妹紅
「強さの次元が違う。うう〜刎ねられて痛い〜痛いけど死ねないぃ〜」
里火
「……難儀な身なのだな…
しかし、かぐや姫…を……」
妹紅
「痛いよ〜」
イナバ
「………師匠、玄関先に重傷者が二名も」
永琳
「不死身の蓬莱人と治療できない相手は、患者と呼べるのかしら?」
里火
「しかし、かぐや姫を目の敵にするとは…どういう訳だ?」
妹紅
「それは長くなるから…」
永琳
「いいですわよ、好きに語っていただいて」
イナバ
「いつもの話ですね」
妹紅
「………」
里火
「………」
永琳
「我らの罪を、地上の民の視点で。
こちらが口をはさむと面倒でしょう」
妹紅
「――……と、言う訳」
里火
「………」
妹紅
「信じられない、か」
里火
「いや…友のことを思い出していた」
妹紅
「?」
里火
「今の話が真実であっても、わしにとっては、宿を貸してくれた恩人だ。
そうすることでしか恩を返せないとしたら、お主を始末するだろう」
妹紅
「………」
里火
「一度は逃れられた気もしたが、やはり宿命は宿命だ」
妹紅
「あんたも相当、難儀な性格だね」
里火
「………」
妹紅
「……なあ闇夜の鴉、黙り込むのはやめてくれないかな?
そりゃあ兎がぐっすり寝てるから、気を使うと思うけど」
里火
「すまぬ」
輝夜
「…あーあーもーなんでそんな弱気かなー。
わかってない、わかってないよ剣さーん」
妹紅
「むっ輝夜、起き出して来たな。私を仕留める為に!」
里火
「……聞いていたのか」
輝夜
「もこたんは帰っていいよ」
妹紅
「なんだと」
輝夜
「まー別に居てもいいけど。
剣さん。はっきり言っておく。
あなたを配下に置いた覚えはない」
里火
「………」
輝夜
「我儘もゲームの誘いも、嫌なら断ってくれていいわ。
妹紅も退治したくなかったらそう言ってよ」
妹紅
「お前やはり!!」
輝夜
「うあー物の例えよー。空気読んでよー!」
里火
「……なるほど、
どうやら、思い上がっていたようだ」
輝夜
「なんで?部下と友人なんて比べようないし」
里火
「それもそうだな」
妹紅
「………」
輝夜
「もこたんも貴重な友人よ」
妹紅
「バっ!バカ言うな!誰がお前なんかの」
輝夜
「おっ闘るかい?朝までテトリス耐久するかい!?」
妹紅
「それで勝負は嫌だ!」
輝夜
「じゃあ桃鉄かスマブラー。剣さんもやるよね?」
里火
「いや、遠慮しよう」
輝夜
「居候が断るの?」
里火
「………」
輝夜
「冗談冗談。あーCOM入ると萎えるのよねー。
兎を叩き起こして参加させようかなー」
里火
「…努力する。それはやめてやれ」
「……やはり前口上は必要なのだろうか」
「うん?」
「……機織る前に、というような」
「うわやめて。改めて聞かせないで」
「ならばなぜ言った」
「…思いつきが出ただけで…」
「ふむ、見事に身ごとを掛けて…」
「やめて解説しないでやめて」
「すまぬ…弾幕ごっこは言葉遊びも大事と聞いたのでな」
「なんだそれは。輝夜が言ったのか…はッ!これも私に恥をかかせる策略!」
「………いや、それは」
「わかってるよ。あんたは利用されてるだけ。おのれ輝夜…!!」
「…気のせいか、先ほどの話が疑わしくなった」
「……うう〜」
「すまぬ」