「わしら瀕死キャラは、重手を負った身ながら、執念深く現世に残り、
時には瀕死とは思えぬような活躍をする」
「私は途中で脱落しましたが。
ククッ、好きに暴れさせてもらいました」
「………」
「……その通りです。瀕死だけど凄い力を持っていて…
皆さんはそんな方々だと思います」
「……ふさわしい死地に辿り着くまで、死ねなかった…」
「……えーと」
「そう仰る奈美さんも常人ではないのでしょうか。
私の目にはごく普通の清純派女子高生に視えますが?」
「清純派って……私は例外で、ただの文芸部員です。
常人じゃない人は…周りにちょっと居るだけで…」
「なるほど。この場の進行には適任」
「それはわかりませんが…」
「なおかつ会議に花も添えられる、と。
いやはや先ほどはああ言いましたが、粋なことをしてくれます」
「あのー…」
「死後の予定は立てられましたか?」
「まっ、まだ死にません!」
「議題に移ろう。わしらは常に死に瀕しているがゆえ、
いつでもストーリーのために犠牲にできる、という目で見られやすいらしい」
「………」
「………」
「…わしらは関係ないが。その点を奈美はとても気にかけておる」
「はい。死んでから『良い人だった』とかじゃなくて、生きてる時から魅力的で、
なおかつストーリーを引き立たせる。そういうキャラクターになりたいんです。
……打算的ですけど、今日を期に皆さんから教わろうかと」
「………」
「……健気な方だ」
「共演者の足を引っ張りたく無いので…」
「では私からアドバイス。
瀕死キャラだからといって病弱さは強調しないほうがいいでしょう」
「な、なるほど…ギャップの演出ですね」
「そう、普段は元気そうに振舞い、手近なビルを一つ二つ…」
「待てい」
「ツッコミした!?」
「……それは、彼女の立ち位置とは違うだろう。
作品には目を通しているのだろうな?」
「おやおや、一部界隈ではクッキーちゃんの愛称で通る私ですよ?」
「……どこの界隈だ」
「幻覚の中でのことか?」
「転視と言ってください。
ツンデレもヤンギレも、流行のヒロイン的魅力など既に手中にしています」
「病みの度合いが尋常ではないな」
「お前のようなヒロインがおるか」
「あーあーこんなところに大きなネズミが二匹も…」
「私も変だと思います」
「まったくその通り。
残念ながら力添えはできませんね」
「………」
「………」
「………」
「して?そちらの焦げてないドブネズミは、
何か有用なアドバイスは出来るのですか」
「……やはりヒロインというのは、
ヒーローにとって必要な人であるべきだ」
「………」
「ふむ…?」
「戦う理由や守りたいもの…
漠然とした、目に見えぬ他人は、やはり誰しも意識できぬらしい。
その象徴だと思っておる」
「そうですね……
ヒーローがヒーローで居られるのは、守るものがあるからであって…」
「………」
「そう、守りたくなるのだ。ごく普通の少女らしく振舞っておれば、それで良い。
か弱く、慈悲深く、神聖と思えるまでに無垢に…」
「ちょっと待て」
「………」
「途中からおかしくなりましたよね?
ヒロインとして悪寒が走るのですが」
「誰がヒロインだ」
「少女信望というか、神格化が激しくて。
今にもアイドルはトイレに行かないとか言い出しそうな…」
「………」
「お前……」
「……歌手も人間だろうに。それくらいわかる」
「当たり前です」
「しかしエルレシア様はもう神なのでな」
「馬鹿だ!これに馬鹿が出たぞーッ!」
「い、いや、待て…彼の中では真実だ…」
「本当に、姫のような御方は他におらぬ…まさに奇跡…―――」
「そは役柄上の演技であろうが!
役に入り過ぎて現実に戻っておらんのかっ、目を覚ませ小童!」
「……黙れ!」
「!?」
「彼は命を捧げて戦ったのだ!
今更そんなことを言い聞かせてどうする!」
「い……いやいや、いやいやいや! この場は楽屋裏たらんか!
左様な空気では行きまじや!?」
「……そこには、触れるな!」
「……………」
「……………」
「―――…まさにはきだめに鶴とはこのこと…
どうかしたか?」
「………」
「………」
「おい……」
「他人の個性をどうこう言うな」
「血涎を飛ばして叫ぶのもか?」
「取り乱すと時代掛かるのもな。正直驚いたが」
「………?」
「………あの…」
「おお、すまぬ」
「お恥ずかしいところをお見せして…」
「いえ。とりあえず、まとめると…
インパクトのある個性が重要。
……と言うことでしょうか?」
「……いや、それはやめておけ」
「癖は少ないに限りますので」
「は、はあ…」
「………」
|