“健一郎くんはひとりで、鉄棒の練習をしていました。 みんなが憧れたサングラスだけど、健一郎くんにとっては大嫌いなものでした。 他の人よりも目が光に弱くて、明るい所にしばらくいると、 涙が出たり、目が悪くなったりしてしまいます。 サングラスがないと長い時間、外にいることができないのです。 『ほら、テープをつけて、顔から外れないようして。体育の時間も頑張ろう!』 先生はそう言ったけれど、健一郎くんは仮病を使っていました。 顔にテープを貼ってあるのを見られるのが、格好悪くて、恥ずかしい。 健一郎くんはそう思っていました。 「だからいつも、体育の授業は見学してたんだ」 健一郎くんはいいました。 サングラスを留めているテープを見ても、手を滑らせて落ちる姿を見ても 雄治くんは笑ったりしませんでした。 周りがかっこいい、家政婦さんもかっこいい、 お父さんとお母さんも、みんながかっこいいって言うけど、 やっぱり健一郎くんは納得いきません。 「みんな心の底では、オレのこと、やっかいもので、問題ありの、変な子供だって思ってるんだ」 そうかもね。 そんなことないよ。 どちらもぴったりの言葉には思えなくて、雄治くんは、 「坂上がり、頑張ろうな」 それだけ言いました。 雄治くんは健一郎くんのサングラスを、一度もかっこいいと羨ましがらなかったけれど、 横から見える、どこかを睨みつけるような緑色の目だけは、 少しだけかっこいいと思いました。” |