"傷だらけの老傭兵_2"
5さいのたんじょうび
きょうからおじさんのおうちでくらします
6さい じどうそうだんじょ というところから
いっぱい人が きました
おじさんはいなくなりました
◇
12才 しせつにいられなくなりました
あたらしいお父さんとお母さんになってくれる人ができました
とても やさしい 人たち です
13才 ぎりの両親が亡くなりました
ほんとうはみんなぼくが殺しました
ぼくは罰をうけるべきです
◇
14才 年令をごまかして入隊した
なるべく早く殺してくれたら楽だ
18才 エチオピアの気候にもなれてきた
作戦、うまく行くと良い
◇
20才 右ヒジ切断ヨリ51日目
左親ユビニ発疹 ヒッキ ノ ヤリスギ
悲愴ニシズムナト同輩ハイウ
ソノトオリ
私ハ探シテイル 私ガ命ヲ投ス場所ヲ
◇
40才 今日の現場でも死ねなかった
先に過労で倒れた仲間を運んでる間も、ここでは死ねないと思った
あと10年我慢しよう
その時が来たら持っているだけの金で爆弾を作ろう
◇
外へ出ていた間に彼女が古い日記を読んでいた。
「掃除していたら落としてしまって、つい」
内容はどこを開いても凄惨なものだ、慌てて閉じさせる。
「ああは言いましたが、流石に踏み込み過ぎです」
「クレムさん」
「はい」
「心中しましょうか」
世界が変化した。
文学的な表現ではない。幻でもない。確かに、風景が一瞬にして灰色の一色に、
「神と次の候補が同時に消滅した時、はたして世界はどうなるのでしょうか」
「あなたは、いや、お前は……!」
記憶が蘇る。
その日も紙袋片手に、少女が仕事場まで来ていた。
「クレムさん。これ預かっていたコルセット、合わせてみてください」
「すまない」
「そうじゃなくて」
しばしの間。不器用ながら、少女に合わせて微笑む。
「ありがとう」
「おーい、クレムさんだけじゃなくて俺の足も見てくれねえか」
他の現場仲間に呼ばれて彼女は行く。
56才。貯めた金で爆弾ではなくナイフを買った。
残った分は誰にも見つからない場所を探すのに使おう。何処か遠く、誰も分け入らない地へ。
願わくば神の目すら届かぬ場所へ。
◇
「クレムさーん」
砂浜で『彼女』が呼び掛ける。
「見る分には絶景ですがここは海賊が良く出る。死体が上がっても気に留めるものはいません」
「クレムさんが来たがっていた理由、よくわかります」
夜、コテージで簡単な夕食を用意した。
「無理を言ってついてきてごめんなさい」
「いや、あなたにこそ、ここは相応しい」
私は正直に伝えた。
ようやく願いが叶う。
「感謝している」
「では」
世界が変貌する。
彼女を中心に。
「はじめましょうか、『ゲーム』を」
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